南洋徒然草

南の島へ移住したオヤジの徒然日記

フィリピン永住ビザ獲得への道(7)

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面接の次は指紋である。これが済めば後は8月末のビザ発行予定日を待つだけなので、筆者と女房は気楽な気分で両収書に書かれた2階の214号室へと階段を降りて行った。しかしこの部屋、ドアに大きくFinger Print Sectionと書かれているのだが、ドアが閉じられたままで人が出入りしてる気配がない。ノックをしても誰も空けないのでドアノブを思い切り引っ張るとドアが開いたが、その時ドア越しに何十人もの職員が一斉にこっちに振り向くのが見えた。

「指紋採取に来ました。遅れてすみません」と言って、4階の面接官秘書から渡された申請種類の束を一番近くのデスクにいる背の高い女に手渡そうとしたが、「ここじゃありません!1階の43番カウンターが窓口です」と言ってドアの方向を指差した。なんだこの職場・・孫口が移転したことを会計課に連絡し忘れたのか、それとも面倒な仕事をたらいまわしにしてるのか、チグハグさが目立ついびつな組織だな・・。

1階に降りて43番カウンターに行くと茶髪アフロヘアの太目の女が座っていて、筆者の姿を見つけると「はい!書類の束出して!じゃあ!手を出して!ほら!指のっけて!違う!人差し指が最初よ!そうそう!」とセッカチに指示してくる。そうして十本全ての指紋を光学スキャナーで採取すると「はい!隣のカウンターに移動して! ACR-iカード用の写真とるからね!」と言った後、隣のカウンターにいる男に何やら口早で指示している。

このアフロヘア女はどの職場にもいる課長より偉いボス女ってやつで、筆者にとっては最も気が合うタイプだ・・。写真係は何かゴツイ感じの男で「ハイ前向いて・・顎引いて・・ハイ今度は横顔、ハイOK」と世界中の写真屋が言う共通のセリフで指示しているうちに撮影はあっという間に終了。そのすぐ後にアフロヘア女が手招きするので隣のカウンターに戻ると、書類の束を筆者に渡しながら「これからアンタの後ろにいるあの二人の所に行ってきてくれる。終わったらまた戻ってきて」と少し顔をしかめながら言った。

後ろというのは何百人もの人が座ったり立ったりしている待合室なので「変なこと言うなぁ・・」と思ったが、その一角に数人行列しているのが見えた。歩いていくと制服を着た男が二人、記載台(どの役所にある長い記入用机)の上に黒インクをローラーで擦り付け、外国人の指をインクになびった後で申請書類のあちこちにベタベタと指紋を押しつけていた。

この二人なんで待合室のど真ん中で・・しかも記載台にインクを・・それに光学スキャナーで10本すべての指紋を採ったじゃないか・・何でこんな意味のない作業やってんだろう・・。二人の職員のうち無表情なデブのオヤジが筆者を見つけると「こっちへ来い」と手で合図をし、筆者の書類の束(7枚くらいあった)から申請書の1枚だけ指でつまんで「この文書のゼロックスコピーを持ってこい。それから写真は持ってるだろうな。」と叫ぶように言った。女房にコピーを撮りに行ってもらい、筆者はデブオヤジから渡された別の指紋押捺書に書き込みを終え、念のため持ってきた写真をやっと探し出すと、ちょうど女房が言われた通り1枚のコピーを持って戻ってきた。

両方の書類と照明用写真を見たデブオヤジは「行列に並べ!」とぶっきらぼうに言う。3人ほど待って筆者の順番が来ると「なんだ!ゼロックスコピー1枚しか撮ってないじゃないか!俺は全部の書類をコピーしろと言ったんだ!」と言って書類を投げ返ししたうえ「全部コピー撮ってこい!それから写真が糊で貼られてないぞ!列から出ろ!並び直し!」と歪んだ笑みを浮かべながら叫んだ。何だこの野郎!・・と怒りが沸いてきたが、筆者の前に採取を終えたイスラエル人の女が首を振りながら筆者へ目配せしてくる。どうも同じことをされたらしい。

筆者の次の韓国人女も案の定「書類全部コピーして来い」と列から外されてしまい、ハンサムなフィリピン人の旦那が慌ててコピー室へと走って行った。その次はどうも台湾人らしき男の順番なのだが、デブオヤジは何故か順番を飛ばし、次の次の順番に並んでいたインド人っぽい男に「よしお前だ!指紋を採るぞ!」と指名した。かわいそうな台湾男は黙ってインド人に道を譲ったが、デブオヤジはねじくれた笑みを浮かべながら満足そうに台湾男をじっーっと見ていた。

どうもこの列にいると爆発しかねないので筆者は隣の列に移ることにした。担当は眼鏡をかけた小男で、眼鏡レンズに蜘蛛の巣が張っているんじゃないかと思えるくらい生気がなく、なぜか必要以上に長い時間をかけてローラーでインクを必死にこすり付けている姿に異様なものを感じた。こいつら壊れてる・・。

だいたいなぜこんな作業が必要なのか理由が全く見つからない。不要な作業を廃止する能力が移民局には無いのか?それともこの作業しか出来ない職員がいて解雇するかわりに無理やり職を与えているのか?もしくは何か問題を起こしたので懲罰かわりに見せしめの刑に処されているのか?それとも過去の遺物と化した作業にふさわしい愚鈍なオヤジ2名が日々壊れていく様を職員に見せる見世物小屋なのか?どれにしても利用者にとっては迷惑この上ない話なんだけど・・。

指紋を張り付けたのは全て女房が撮ってきたコピーの方で、無造作に記載台のラックに放り投げた。たぶんそのまま焼却炉に行くんだろう。作業が終わると眼鏡男が「あっちへ行け」というゼスチャーをしたので43番カウンターに戻る。さっきのアフロヘア女にオリジナルの書類の束を渡すと、そのうちの一枚に定規を当てビリビリと下の部分を切り取ってから筆者に渡した。APPLICANT’S ACR I-CARD CLAIM STUBという表題で筆者のACR-iカードの仮番号が書いてある。

「移民局のウェブサイトを定期的にチェックしてよ。アンタの名前がリストに出てきたらビザの準備が完了してACR-iカードが出来上がったということだから、その時は代理人でもいいから本部まで取りに来て。それからその切り取った紙は忘れないようにね。ハイ今日はおしまい。」と女ボスは親切に説明してくれた。あ~やっとこれで本日終了か・・面接とアフロヘアの女ボスは良かったけど、あの指紋係の親父は一体なんなんだろう・・まあ何とか終わった・・次はウェブサイトでの合格発表待ちだ。