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sankarat’s blog

南の島へ移住したオヤジの徒然日記

フィリピン地方政治の実情

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こっちに来てからバスケットボールコートや小学校の建物、町役場の椅子などにYNARESという文字が書かれている事が気になるようになった。筆者が出歩いているのはCAINTAとかTAYTAYという場所なのでYNARESというのは地名でもないし一体何だろうと思っていたのだが、先々週女房の実家を訪問するためリサール州を端から端に横断した際、行けども行けども全てのバス停の屋根の上に大きくYNARESの文字が書かれていたり、バス停自体がYNARESの最初の文字Yの形状をしているのを発見した(写真下下)。なんだ・・バス会社の名前か・・西武鉄道とか京王帝都電鉄が学校に体育館を寄贈したようなもんか・・なるほどね・・とその時は納得したのである。

さて今週半ばに所要で再度女房の実家に行くことになったのだが、あいにく我が家の車は修理に出しているので仕方なくバスを使わなければならない。女房と同居人たちがどのバス会社で行くかと話しているので、筆者が「YNARESバスで行けばいいじゃないか。路線もいっぱいありそうだし」と会話に割り込んだところ、全員が「はぁ?」という顔をし始めた。発音が違うのかと思いイネアースとかワイネアーズとか言い直したのだが、YNARESの発音はイナレスで正しいがバス会社の名前ではなくてリサール州の州知事の名前だというのだ。そのあと同居人の中では一番モノ知りの大学生の姪(女房の妹の娘。かなり生意気)がYNARESファミリーについて説明してくれた。

 まず父親は1992年から2001年までと、2004年から2007年までに2回(2期ではなく2回)リサール州知事を務めたのち引退したらしい。次に母親が2001年から夫の代わりに州知事を務め、2004年に夫にバトンタッチするとリサール州最大の市アンティポロの市長になったが今年再び州知事に返り咲いている。さらに二人の間にできた息子は2007年に父親と交代する形で州知事に選出されたが、今年任期終了となったため母親の跡を継ぎアンティポロの市長になった。もう一度言うが現在の州知事は再び母親が務めている。

つまり21年もの間リサール州の州知事ポストはこの親子3人の間を行き来しているだけなのだ。またこの親子以外のファミリーメンバーもあちこちの町長や村長を務めていて、兄弟親戚同士で首長ポストの入れ替えを繰り返しているらしい。こんな一族全員がロシアのプーチン大統領みたいな政治状況を選挙民はよく黙っているなと思うが、このYNARESファミリーはフィリピンの他の州の政治家一族に比べれば相当まともな方らしいのだ。「いろんな設備や学校を作ってくれるじゃない!YNARESは立派な政治家よ!」と姪は鼻を膨らませながら言った。

YNARESの名のついた施設をネットで検索してみたところ、小学校と中学校がそれぞれ4校、大学が1校、病院が1つ、多目的屋外コートが8カ所、3000人収容の体育館と12000人収容のスポーツセンターがそれぞれ1カ所ずつ出てきた。ただしこの数字には筆者の見てきた学校や役場の一部分の建物がYNARES名になっているケースは入っておらず、こういうのを全部ひっくるめると100カ所は軽く超えるらしい。

なるほどフィリピンで権力を維持するためには莫大な寄贈が必要なのか・・大学や体育館は相当金がかかりそうだし、バス停だって何百か所もあるのだから、おそらく数十億円は寄贈しているに違いない。よほどの大地主かケネディー家みたいに財閥じゃないと州知事にはなれないんだな・・と思い、「YNARESファミリーって何の商売をしているんだい?YNARESって名は経済誌ではあんまり聞いたことないけど」と尋ねたところ、姪はキョトンとしながら「何って政治家よ。ビジネスマンじゃなくてポリティシャンよ。家業は無いわ。」と答えてきた。

そんなはずはない!家業が無かったら莫大な寄贈額を捻出できないじゃないか!と反論すると、お前は何を言っとるんだという顔つきで「州知事が寄贈したんじゃなくて、政治力を駆使して州予算から捻出したのよ。あとは州知事の名前を冠した基金を作って州内の市町村の予算から寄付させたりとかね」と筆者を諭すように答えた。(後日近所のイナレス運動場を見に行ったが、そこに書いてあったプレートにはDonate寄付という文字は見当たらず「〇〇町長の旗振りでイナレス州知事の行政の元に建設された」と書いてあるだけだっだ。)

えっ? つまり・・これって税金!?・・・知事が州の予算を使って公共施設作るなんて当たり前じゃないか・・自分の名前のつけた施設をこしらえてるってこと? 日本で言えば、石原慎太郎と息子たちが都知事職を独占し、都の予算で都立石原高校とか慎太郎スタジアムとか伸晃スポーツ公園を建設してるとか、古くなった都立高校の体育館を都の予算で立て直す際に慎太郎記念体育館とかチャッカリ命名してるのと同じってことか?

だいたい寄贈無しで政治家が自分の名前を生存中に学校に付けるなんて毛沢東の時代はまだしも今の中国だってありえんぞ、アラブの独裁者たちが倒れた今じゃ北朝鮮くらいじゃないか?と驚いていると、「自分のお金を犠牲にする政治家なんているわけないでしょ!ほとんどの政治家がネコババしてるんだから、学校に自分の名前を付けるくらい全然大したことないわ!それに選挙民は施設や学校が増えてみんな喜んでるのよ!」と20歳の姪にフィリピンの政治についてレクチャーしていただいたのだが、筆者はその内容と何よりも姪の口調に、この国の政治は今後100年たっても変わる事はないのだろうなぁとの思いを強くしたのである。